罪業を償わせるつもりだった(刃丹SS) ※執筆中
幽囚獄に繋がれてた幼い丹恒くんを記憶取り戻してすぐで星核ハンターに所属してない刃ちゃんが誘拐するお話です。
ブルスカのポストしてた幼子のお話を小説したものです。
途中オリジナルの星とか名称が出ます。
後々に丹恒くんが大きくなったら成り行きで星核ハンターに二人で加入することになりますが、そこまで書けるかどうかわかりません…。
現在5069文字
まだ五歳にも満たないような幼い龍を刃は攫ってきた。
女剣士に千回殺され打ち捨てられた後、記憶をなくし数年間放浪していた。自分が誰かもわからずどこから来たのかもわからず、ただそばに落ちていたボロボロの剣だけを携えて彷徨っていた。そうしていく日もの日が過ぎたある日、ふと水面に映った顔を見た瞬間、まるで花が次々に咲くように自身とその過去を思い出した。その瞬間に苛まれた己を飲み込まんとするほどの激情を一生忘れることはないだろう。感情が昂り過ぎて落ち着くまで周りが一切見えなかった。その間の記憶ももはや朧げなほどである。その時になって自分が、いわゆる長命種が陥る病『魔陰の身』に陥ったのだと悟った。絶望と呼ぶことすら生ぬるいと思えるほどの深く暗い感情を味わった。やがてそう時間も経たないうちに目的を決めた。大して身なりも顧みず、ただ体をすっぽりと覆うような黒い外套を身につけて単身で仙舟へと乗り込んだ。そして目的である鎖に繋がれた幼い龍を見つけると、言葉も交わすことなく鎖を絶って強引に攫った。幽囚獄の警報が鳴り響く中、脇に抱えた子供は何が起こっているのか分からない様子でぽかんとしている。「いたぞ!」「追え!」「逃がすな!」次々にやってくる看守たちの目を欺いて出口へと向かう。そうして迷宮のように入り乱れている幽囚獄の中を駆け回り、ようやく外へと出た。一目のつかない場所に停泊させていた星槎に飛び乗り、抱えていた子供を適当に放り投げて起動させる。初めから最高速度を出して一直線に舟外の宇宙へと目指した。
自分たち以外に客がいない船を降りてあたりを見渡す。今が夜だからなのか、はたまた恒星がないから暗いのか、その星に初めて降り立つ刃にはわからなかった。ターミナルから出ると乾燥した荒野が広く続いているようだが、切り立った岩山の向こうには街の明かりが見える。とりあえずそこまで目指すか、と少し暴れることを覚えた子供を抱え直して足を踏み出した。
星槎は仙舟を出て早々に捨てた。逃げるための速度に何の問題もなかったが、後に指名手配された時にいつまでも星槎に乗っていてはバレてしまう。なので刃は適当な宇宙ステーションでその星槎を捨てて切り刻んだ後、いくつもの駅を渡り歩いて今の星まで来た。
どうやらこの星は数琥珀期前にカンパニーと関わるようになった星らしいが、現在ではその関わりもかなり希薄だという。何があったかなどは知らないし知る由もないが、カンパニーとの関係が薄いことは大いにありがたい。あの仙舟同盟が一隻の龍尊が何者かによって攫われたことを黙って見ているはずがないのだ。現にここを訪れるまでの間に既にニュースに取り上げられていた。こういう時に限って早く動くのだあの間抜け共は。それが出来るなら自分の時間に驕ってないで少しは真面目に働けというものだ。俺のように。
ちらりと左脇に抱えた子供を見る。数駅前くらいから時々刃の腕を掻き、離せと言わんばかりに小さく暴れることはあるが、それ以外は大人しい。泣きもせず、喚きもせず、ただ少し暴れて抱え直されればすぐに他の動作を諦める。刃は未だ子供の手首に残っている枷を見て、恐らく生まれた時からあそこに繋がれていたのだろうと推測する。そりゃあそうだろう、こいつこそ彼女をあんな化け物に変えて羅浮を混乱に陥れた張本人なのだから。…俺もだが。
街の灯りがかなり近付いて来たところでふと道の脇を見てみると、明らかに使われていない風貌をした軒が一軒あった。刃は行く先をそちらに決めると割れた窓から中を見た。荒れてはいるが人がいる気配は無い。奥に寝台らしきものが見えたので玄関へ戻って蝶番を握る。ガコガコギリギリ、と錆び付いた音がしたがどうやら鍵などは施されていないらしい。ガチャンと一等うるさい音が響いて扉が空いた。
入るとそこは酷く埃まみれで、砂埃も凄かった。食器やら本やらがあちこちに散乱している。家具も大きく移動した形跡があり、複数人が暴れたのだろうなと簡単に推測できた。だがそれもかなり前の痕跡だ。つい最近この建物を訪れた者はいないらしい。
刃は寝台の方まで歩いていくと寝台の砂埃を払い、脇に抱えていた子供をそこに座らせた。子供は大人しくされるがままに座る。しかし刃とは目を合わせようとはしなかった。刃はそれに構わず続ける。
「飲月、俺が誰だか分かるか」
ふるふる。子供が小さく首を振った。
わかっていた。術を施されたのだからこそ奴はこうなっているんだ。落ち着けと自分に言い聞かせる。魔陰は気が高ぶるとそれを助長するようにさらに油を注ぐものだ。意識を保ち冷静でいることを常とする。それが今刃が出来る対処法の一つ。もう一つは今は割愛しておこう。
ふぅ、と重く息を吐く。刃のその様子をつぶさに子供は見ていたが、口を開くことはなかった。
頭を振って仕切り直しだとばかりに向き直る。その時刃は初めて子供と目が合った。緑青の美しい瞳だ。体が小さくなっただけでまるで変わらない。どう見ても丹楓だった。
はた、と刃は思い出す。俺はこいつを殺すために攫ってきたのではなかったか、と。こんなふうにお喋りしたり、なんならこんな星まで連れてこなくたってよかったのではないだろうか。俺の手でこいつを殺して、それで俺も死ぬ——なんて出来たら良かったが生憎この体じゃ死ねない。だからまた幽囚獄に繋いでもらいに行くしかない。
そう、当初の予定はそうだったはずだった。いつから軌道が変わっていたのだろう。この子供が存外大人しかったからか?それでたまたまいい廃屋まで見つけてしまったからか?それでせっかくだから対話でもしようかと。……俺も仙舟人に皮肉を言えないかもしれない。
まぁ当初の目的は一旦さておくことにする。カンパニーか同盟に見つからない限り、こいつを殺すことはどうにでもなる。これまた皮肉なことに俺は死ねない体を持ってるので時間は山ほどある。応星とは違ってな。
そうして刃は一つ決めた。この視線もまともに合わそうとしない無愛想な子龍を飼ってやろうと考えたのだ。成れの果てではあるが、かつてその身まで重ねて愛を囁いた相手によくもまぁそんなことが思いつくな、と流石に自分でも引いてしまう。だが仕方がないのだ。しばらく生かして置くと決めたからには世話をしなければならない。また自分たちを追っていつカンパニーの人間や同盟の者が来るかもわからない。誰かにこいつが奪われるくらいなら、俺が奪う方がマシだ。だがそうなると拠点は定期的に変える必要があるだろう。ここは確かに街の外れにあるボロ屋で、一見人は寄りつかなさそうだが、油断はできない。何せこの宇宙で広く伝わってる便利道具——仙舟の言葉で言うなら玉兆——がこの星にもあることはわかっている。あれで写真を撮られてSNSなんかにあげられれば一発で特定されてしまうだろう。それだけは避けなくては。
飲月は手持ち無沙汰なのか浮いた足をぶらぶらとさせている。その様を見ると本当にただの子供だ。
刃はここでしばらく生活するなら食料と飲み物だな、と頭を身ぐらせる。あいにく刃は玉兆を持っていないのでこの星の詳細については現地住民に尋ねるほかない。信用ポイントは…働けばなんとかなるだろうか。
「飲月よ、俺はこれから物資の調達に行ってくる。ここで大人しくできるな」
刃は立ち上がりながら話しかけた。その様子を子供は顔をあげて追って行く。すると徐に口を開き出した。
その言葉を聞いた瞬間刃の何かが崩れる感覚がした。術を施されて若返らせたとはいえ、こうも瓜二つで生まれてきたのだ。今までも大人しく、その眼差しでさえほとんどそうだと思っていたのに。刃はこの幼い龍がまだ丹楓のままであると信じていた。しかしそれは幼子の発言で覆された。丹恒…丹恒…丹楓の転生体…?刃は持明族の転生について今初めてちゃんと理解したかもしれなかった。だがそれで、はたと思い出す。こいつが丹恒ということは丹楓は持明族風に言うと古海に流されたということだ。つまり罪はもう洗われているはずなのだ。なのにどうしてこいつは幽囚獄に繋がれていたんだ?あいつの罪は脱鱗だけでは流されなかったということか?
刃はかぶりを振る。そんなことは重要ではない。その辺のことを聞くには仙舟に戻らなければならないだろう。刃にはそんなことたとえ舌が飛んだとしても「嫌だね」と言っていただろう。
「では丹恒、大人しくこのボロ屋で待っていてくれるな?」
「どうして連れて行かないんだ?」
「貴様の姿は目立つ。それにこの星には俺も何があるかわからん。故に俺一人の方が動きやすいんでな」
「……」
丹恒の片頬むすっと膨れる。なんと分かりやすい。あいつもこれだけ分かりやすければ良かったんだがな…、と自嘲のため息が出る。刃はぐるりと寝室の様子を見て回る。荒れてはいるが窓は割れていないし、通路に行くための扉はきちんと内側から鍵が掛けられる。もし誰か来てもじっとしていれば安全なはずだ。
「飲月、俺が外に出たらここの部屋の鍵を閉めるんだ。わかるか?」
名前を名乗ったのになおも飲月と呼ばれてさらにむすっとした丹恒だが、大人しく寝台から降りて刃の元へ向かった。
「ほら、ここが鍵だ。お前の手でも届くだろう。手前に引いて押し込むんだ」
丹恒は短い手足をめいいっぱい伸ばして鍵を施錠してみせた。
「上出来だ。開ける時はさっきの逆をやるんだ。こんなふうにな」
刃が流れるような動作で解錠する。そして扉を開けると丹恒に言った。
「俺が帰ってくるまで誰が来ても決して開けるなよ。わかったな」
「…わかった」
「それと言うのを忘れていたが、俺の名前は刃だ」
「じん…」
丹恒が幼い声音で反芻する。それを聞いて刃は一つ頷いてみせた。
「さぁ俺は出て行く。どうやって施錠するかわかるな?」
丹恒はこくんと頷くと扉を閉めて、ガチャリと施錠した。刃はそれを外からノブを捻って確認する。
「よし、上出来だ。1システム時間か2システム時間ほどで戻ってくる。…もう一度言うが、俺以外開けるなよ」
「わかった」
ドア越しのくぐもった返事を聞いて人は納得してそのボロ屋を離れた。丹恒はボロ屋から離れて行く刃を、寝室の水垢に塗れた窓から眺めていた。
刃が街に来てすぐにわかったことは、この星はどうやら物々交換が主流だということだった。カンパニーとの関係が希薄であるというところに多大な意味がありそうだと考えていれば、おしゃべりな店主がべらべらと喋ってくれた。曰く昔はカンパニーがこの星に来た時などはみるみる文明が発達していくものだから、それは皆喜んでいたらしい。しかしそれも数年続いた頃、皆カンパニーに対してデモを起こしてカンパニーの人間を一斉に退けたのだとか。そのデモを起こした理由というのにこの星特有のエネルギー資源が上がる。
昔からこの星に存在するエネルギーではあったものの、カンパニーが来訪するより以前の星の住人たちにはそのエネルギーをどうこうする力も技術もなかったのだ。それが突然カンパニーが来たことによってその星のエネルギーは様々な用途に使われるようになった。たとえば電気で街が明るくなるなどだ。カンパニーの技術によって街は進化を遂げていき、観光客も増え、星は豊かになったと思われた。いや、実際には豊かだったのだ。しかしカンパニーは当時の住人たちにこう言ったのだ。「星の発展を成し遂げたのは我々であるので、エストロプエレルギーをはじめ、この星の資源は全てカンパニーが所有するものとする!」と。当然星の住人たちは反対した。自分たちの星のものを奪われた挙句、使用すれば税が課せられるなんてちゃんちゃらおかしな話である。それでデモが勃発し、カンパニーは退き、現在の状態になったという。
刃はその話を聞いて疑念を抱いた。金になる資源が目の前にある状態であのカンパニーが住人のデモだけで退いたりするだろうか、と。実際どんな規模のデモが行われたのかは知らないが、きっとカンパニーならまた何か策を講じて何か大義名分を掲げてこの星の住人を制圧しに来るだろう、と刃は踏んだ。
物々交換は基本なんでもいいらしい。交換する相手が交換しても良いと思えるものを差し出せばそれでいいそうだ。カンパニーがいた頃は端末で信用ポイントを払っていたらしいが、もはやその文化も情勢的に廃れて久しい。刃は無一文どころか支離以外に何も持っていないので、街の外れに何か交換できるものがないか探しにいくことにした。
