「旅人が協力してくれるとなるととても助かる。戦力は多いに越したことはないからな」
セノはまず精霊への疑問はよそに、旅人が今回来てくれたことに対して感謝を述べた。旅人もその言葉に対して「いいよ、困った時はお互い様だから」と返した。
「それで、君の傍で浮いてる…その……ピンクの物体は?」
カーヴェが率直に疑問をぶつけるとピンク色の物体と言われた精霊――ソルシュは「心外だ!」とでも言うように大袈裟に揺らめいてみせた。
「ピンク色の物体とはなにヨ! 私にはソルシュっていう立派な名前があるノ!」
ソルシュがそう発言したことに対してセノたち一同は大変驚いた。
「旅人この子喋るのか!」
「ああ、紹介が遅れてごめんねカーヴェ。彼女はソルシュ。甘露花海にいる花霊の一族の一人で、俺を助けてくれてる。ソルシュ、この二人はセノとカーヴェ。俺の友達だよ」
さすがはテイワットを旅する旅人なだけあって自分たちの行ったことのない土地まで知っている、とセノとカーヴェは感心した。甘露花海なんてほとんど名前しか聞いた事のない砂漠の奥地も奥地だ。そこに用がある学者はスメール教令院においてはナガルジュナ団がかつてその土地と縁があったなどと噂されていたが、今となってはとっくの昔に離反した学派の事などカーヴェたちが知ることはほとんどない。
「さっきは物体だなんて言ってすまなかった。僕はカーヴェ。ルームメイトの男を探してるんだ」
「そウ。謁賛主があなたたちについて行くと言うならワタシも同行するワ」
「ありがとう」
「それはそうと、セノ。そっちの二人は?」
旅人はセノの後ろに立っていたハフィズとイムランを指してそう尋ねた。ハフィズは目をキラキラと輝かせながらセノの後ろから一歩前に出て旅人へと向かって握手を交わすための手を差し出した。
「初めまして、あなたがあの有名な旅人さんですね! 俺はマハマトラのハフィズ。こちらの赤毛は同じくマハマトラのイムランって言います。セノさんとカーヴェさんと同行させてもらってます」
よろしくお願いします、と礼儀良くハフィズは旅人と握手を交わし、自己紹介を済ませた。
「ハフィズ、イムラン、こちらこそよろしくね。ちなみにこれからどこに行くつもりだったの?」
「ダールアルシファだ。怪しい動きをしていたある学者の目撃情報があってな、道すがらそのことも話そう」
セノはそう言って旅人を引き連れ、七天神像の右脇を逸れて進んで行く。カーヴェとハフィズ、イムランもその後ろに続いて歩いていった。
七星七天神像の右脇から道なりに沿って歩けば、すぐにダールアルシファだ。道中は砂埃が激しく視界が悪い。一行はお互いを見失わないようにまとまって移動した。
やがて一つのオブジェクトが一行の目に留まる。それは旅人曰くワープポイントと呼ばれる代物で、旅人だけが使い方がわかるとされているものであった。そのワープポイントを左に曲がると、かつては砂漠の中でも大きな病院であったとされるダールアルシファが見えてくる。だがそこはかつて旅人が旅で訪れた時よりも閑散とした雰囲気を漂わせており、人気を感じさせない。点在していたエルマイト旅団の者たちもおらず、本当の廃墟と化していた。しかしよくよく観察してみれば、つい最近人がいたような痕跡が点々と残っていた。
神の目を持つセノ、カーヴェ、そして旅人が元素視覚を使って辺り一帯を調べてみる。すると草元素の痕跡が不自然に散らばっていた。
カーヴェはその草元素を確認してすぐにハッとした。その草元素の痕跡は間違いなくアルハイゼンのものであるとはっきり分かったからだ。そしてその草元素の痕跡はダールアルシファの地下の洞窟へと繋がっていることに気づいた。
一行は顔を見合せ、地下へと降りた。そして再び元素視覚を以てアルハイゼンの痕跡を追う。カーヴェは目を凝らしてよく観察した。そうでなければ見逃してしまいそうな程に、痕跡が途切れ途切れでか細いものなのだ。一体彼がどんな目に逢い、こうして痕跡を残すに至ったのか。寝不足の頭が嫌な想像をするが、それを打ち消すように必死になって痕跡を探した。
旅人が言うにはこの地下には出口が一つしかないと言う。出るならきっとそこに行くはずだ、という助言にカーヴェとセノは痕跡がそちらへ辿っていることを確認しながら進んでいく。やがて一行は旅人の言っていた通りの出口へと辿り着いた。
出口の向こうにはオアシスが広がっていた。砂漠にしてはそこそこの大きさのあるオアシスで、見れば魚が泳いでいたり、キノコンが生息していたり、ワニまでいる始末である。砂漠の中の貴重な憩いの場所なのだろう、鳥たちもちらほらと水を飲むために留まっていた。
一行は一度そのオアシスで休憩を摂ることにした。明朝にアアル村を出てからすっかり日が昇り、今はお昼前くらいだろう。セノたちはオアシスに近付くと適当な岩場に座って水を飲んだ。その間も気が気でないカーヴェは痕跡を見失わないように、座らずに元素視覚を使ってオアシス周辺にも目を凝らしていた。
「カーヴェ、少し休もう。ずっと元素視覚を使っているのも体力を消耗する」
セノはカーヴェに水筒を差し出しながらそう言った。カーヴェはそれを自分のがあると手のひらを出して断り、自分の水筒を出すと一口二口飲んで袖で口を拭った。
「分かってる、そんなこと。でも……」
カーヴェはそこまで言って下唇を噛んで俯く。やっと見つけた痕跡だから、消えてしまう前に追い掛けたい。言外にそう言いたいことが明白にわかる表情だった。
「気持ちはわかる。でもこういう時こそ俺たちがしっかりしてないといけないだろ」
「……」
セノにそう諭されされるもカーヴェは諦めきれなかった。少しだけ、もう少しだけ元素の痕跡を追わせてくれ、直ぐに戻るから、そう言って引き止めるセノやテントを張り始めているハフィズたちから離れてオアシスの向こう側まで見に行った。しかしそこにはカーヴェの予想に反する結果が待っていた。オアシスを越えた辺りで、草元素の痕跡はまるで事切れたかのようにふつりと途絶えていたのだ。
カーヴェは青ざめた。最後に見つけた痕跡はどの痕跡よりもか細く、残っていたのが奇跡なほどだったが、それを最後に次を見つけられなくなってしまったのだ。さすがにこれ以上探しに行くとオアシスで休んでいる皆に心配されてしまう。カーヴェは後ろ髪引かれる思いをしながらも、辿るべき痕跡が途絶えてしまったことを報告するためにセノたちのいるオアシスへと戻った。
カーヴェが戻った時にはハフィズとイムランはテントを張り終えていて、皆は戻ってきたカーヴェに気付いて彼に駆け寄った。
顔面蒼白で帰ってきたカーヴェに何かあったのだと旅人やセノはいち早く気付き、何があったと尋ねた。
「アルハイゼンの痕跡がオアシスの向こう側から途絶えていたんだ…」
「そんな…!」
それを聞いたハフィズが声を上げて戸惑いを表す。セノは右手を自身の顎に添えて考える素振りを見せ、今後の行動について考えているようだった。
「痕跡が途絶えたのはかなり痛いな。足跡を辿ろうにも、風でもう消えているし…」
ひとまずテントに戻ってそれから考えよう、とセノは言ってカーヴェを休ませるために一行はテントへと戻った。
テントへと戻ってきた一行はデーツの実や携帯食料などを持ち寄って各々で空腹を満たす。カーヴェも、食欲こそあまりになかったが何も食べないわけにはいかないので、あらかじめ作った置いたと言う旅人が差し出してくれたコシャリを食べた。旅人はやはり旅をしているだけあって用意がいい。このテントも旅人が持ってきたものなのだろうか。カーヴェはふとそんなことが気になって旅人に尋ねた。
「旅人は砂漠用のテントもいつも持ち歩いてるのか?」
「え? ううん、これはハフィズが用意してくれたんだ」
「ハフィズが? 用意周到だな」
まさか砂漠用のテントを持ってきているなんてと驚いていると、その言葉を聞いたハフィズはデーツを食べるのを止めて顔を横に振った。
「いえ、違いますよ! 俺も何も持ってなかったんですけど、アアル村のおじさんに持っていけって言われて貰ったんですよ」
持たせてくれたおじさんには本当に感謝してます。そう言ってハフィズは砂漠の太陽を遮ってくれているタープを見上げる。使い込まれてきたものなのか所々汚れていたり、何度も折りたたまれた跡があるが、熱烈な日差しを遮るには十分な程だった。
「それで、これからどうします?」
そう尋ねたのはハフィズと同じくデーツの実を齧っているイムランだった。ハフィズとイムランはどうやらひとつのデーツの実を半分に割ってそれを半分こしているらしかった。
「痕跡が途絶えて追えないなら、何か他にこの周辺でないか探すしかないんじゃないですか」
イムランの意見に全員がうーんと唸る。それもそうだった。元素の痕跡以外に有力な手掛かりが無いのだ。出来ることといえば、痕跡が途絶えた場所を中心に周りを調べるか、予測を立てて先へ進むか、その二択だった。
「イムランの言う通りだ。ひとまずカーヴェの言っていた元素の痕跡が途絶えた場所の周りを調べてみることにしよう。もしかしたら何か他の手がかりが見つかるかもしれない」
セノはイムランの考えに賛同した。それを聞いた皆も一様に頷き、意見の一致を示す。セノは続けて言う。
「一度二手に分かれて探索しよう。…万が一何も無い場合は、予測して先へ進もう。それでいいか?」
セノは全員の顔を見て伺いを立てる。それに否を唱える者はおらず、皆力強く頷いてみせた。
「なら行動に移そう。カーヴェ、案内してくれるか」
「ああ、もちろん」
そうして全員立ち上がってテントから離れる。カーヴェが「こっちだ」と示す方向へ歩いていくのを後ろから着いて行った。そしてオアシスを少し越えたあたりで、「ここが痕跡を見た最後の場所だ」と言って立ち止まった。
セノと旅人は元素視覚を使って辺りを見る。しかし最後にあったという痕跡もかき消されてしまったらしく、見当たらなかった。カーヴェが先程多少無理をしてでも進んでいなかったら見つけられなかっただろう。カーヴェも痕跡が消えた様子を見て、進んでよかったと先程の自分を褒めた。
「ではここを中心にこの周辺を探ろう。何か些細なことでも見つけたら報告してくれ」
セノはそう言って旅人と共に近くの岩場へと向かった。
カーヴェもハフィズとイムランを連れてセノたちとは真逆の方を調べに行く。しかし調べるにしても、ここはあまりにも何も無く、少し離れたところにヒルチャールの巣があるだけであとは砂しかない。カーヴェは何度も元素視覚を試したが、やはり元素の痕跡はどこにも見当たらず、落胆ばかりが募った。元素視覚が使えないハフィズとイムランは目に見える痕跡を探そうと目を凝らしたが、辺り一面太陽光を反射する砂しかなく、視界がチカチカと眩しくなるばかりであった。
やがて一時間程経過した頃、セノたちと一度合流することにした。昼間の砂漠は上からも下からも熱が照り返してくる。一時間活動しただけでも砂漠に慣れていない人間には酷な環境だ。故に休憩を挟むことにしたのだ。
かくしてカーヴェたちはセノと旅人と合流し、岩場の日陰で休みながら報告をし合った。だがお互い大した痕跡も見つけられずにいることが分かっただけであった。
「やっぱり何も見つけられなかったな…」
パイモンが力無い声でそう言った。カーヴェもその言葉に歯噛みする。
「仕方ない。予測して先に進むしかないな」
セノは腕を組みながら言う。このままじっとしていても日暮れになるだけだ。せっかく掴んだアルハイゼンの痕跡を無駄してたまるものかと、座っていたカーヴェは立ち上がった。
「ならこの先をもう少し進んで……」
その瞬間カーヴェの言葉が不自然に途切れる。カーヴェの鼻腔に肉の焼ける匂いが漂ってきたのだ。
「誰かが肉を焼いてる…」
カーヴェがそう零す。その言葉にいち早く反応したパイモンが鼻をスンスンと鳴らして匂いを嗅ぐと、確かに肉の焼ける匂いがした。
「おお、確かに肉の焼ける匂いがするぞ!」
近くに誰かいるならそいつに話を聞いてみるのはどうだ?とパイモンは提案した。その案に一同はなるほどと了承する。近くに滞在していた誰かから話を聞ければ何か情報は掴めるはずだと、一同は匂いのする方向を辿って歩いて行った。
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時は遡り明朝。陽が地平線より上に登ってきた頃、アルハイゼンはあの檻から移動してどこかの遺跡の一室へと通されていた。
相変わらず手枷や足枷は付けられていたし、服も薄汚れたガラビアではあったが、先日閉じ込められた檻より空間的には快適な場所であった。幾分かマシであるだけで状況は好何も転していないのだが。
儀式の時までここでお待ちください、とターリブに言われてから数刻が経とうとしていた。硬い地面に座ったままアルハイゼンは、これも運だろうかと半ば達観した気持ちでいた。自分がこうして捕まったのもある意味自業自得ではあるのだ。
アアル村から貰ってきた本の中に知論派学者が書いたものであろう書記を見つけた。それには署名がなかったが、しかし内容がキングデシェレトの文字に纏わるもので実に興味深いことが書いてあったのだ。同作者の著書が他にないか探すため――恐らくかつて知論派出身であったグラマパラだろう――学者の名を聞くために再びアアル村を訪れようとしたところ、あの元素拡散装置を持ったエルマイト旅団の二人組に襲われた。
儀式がいつ始まるのかすら知らない。しかし今日始めると言っていたからには、あと数刻のうちには自分は生贄というものにされるのだろう。
(本当にキングデシェレトが復活するとは到底思えないが…)
こんなことでキングデシェレトが復活しているのならとうの昔に復活を果たしていそうなものだ。故にこの儀式も失敗に終わるとアルハイゼンは思っていた。
「アルハイゼン、書記官…?」
そうして何ともなしに贄にされるのを待っていると、学者服を来た男がアルハイゼンのいる部屋に戸惑いがちに入ってきた。
「まさか今日贄にされるというのは貴方ですか!?」
男は驚きを隠さず駆け寄ってくるとアルハイゼンの前で跪き、アルハイゼンの手枷や足枷を確認し、神妙な表情をした。
「君は?」
「私の名前はカリールと言います。妙論派の人間です」
妙論派の人間と聞いてアルハイゼンは、こいつがあの装置を作っていたのかと合点がいった。妙論派の装置を作る技術なんて少し機械を齧った程度では到底真似できるようなものでは無い。ましてやあんな元素を操る装置など、妙論派でもない見るからに因論派らしいターリブが作れるはずがないと思っていたのだ。
「…君もターリブと結託しているのか」
「まさか!違います!私は……!」
アルハイゼンに言われたことにカッとなり勢いを付けて捲し立てようとしたカリールであったが、やがて思い止まるように消沈するように項垂れたそして、まるで罪でも告白するかのようにぽつりぽつりと言葉を零す。
「……私はフェニキアという砂漠の奥地にある集落へ向かおうとしていた所を、ターリブの手下たちに攫われてここへ来ました。何故かターリブは私の素性を知っていて、『フェニキアの人たちが酷い目に合わされたくないのならば、この装置を作れ』と言ってきました。それで……やりたくはなかったのですが、元素を四散させる装置を作り…」
カリールは膝の上に置いた両手をぐっと握りしめて、悔しそうに唸ってみせる。
「ターリブはこれまでにも数人の人間を犠牲にして儀式を行っています。ですが全て失敗に終わり、贄にされた人達は皆、まるで神の缶詰知識を垣間見たグラマパラのように発狂してしまっています。…それで命を落とした者も…」
目を瞑って一息つき、カリールはアルハイゼンに向き直った。
「書記官、どうにかしてターリブを止める手立てはありませんか」
真剣な眼差しでカリールがアルハイゼンにそう問いかける。しかし今のアルハイゼンには神の目すらないのだ。止める手立てどころの問題ではないだろう。
「そうは言っても神の目の無い今の俺は、君らより少し武の心得のある一般人に過ぎない」
アルハイゼンは正直に現状を伝えた。
「神の目を取り返せば挽回出来ますか」
「どうかな。何せ向こうには君の作った装置もあるから」
「……なら、貴方一人が逃げるくらいは出来ますか」
「……ああ」
「なら、貴方の神の目を探してきます。貴方だけでも逃げて、教令院にこのことを伝えてください」
「君はいいのか」
君が手を貸したことはすぐにバレるよ、とアルハイゼンはカリールに言う。だがカリールも冷や汗をかきながらも、まるで博打に出るような面持ちで笑った。
「もう二ヶ月もここにいるんです。貴方が戻ってくるまで耐えてみせます」
そう言ってカリールは立ち上がり、部屋を後にした。
アルハイゼンはカリールを信じて待つ。だがしかし、運というものはなかなかいい波に乗ってくれるはずもなく、次にアルハイゼンの部屋を訪れたのは、片手にアルハイゼンの神の目、そしてもう片腕にカリールを抱えたラウダだった。それを見たアルハイゼンは、かと言って表情を変えることなく、やはりそう上手くはいかないかと状況を瞬時に受け入れた。
「このことはターリブには報告しないでおく。俺も砂漠の民を無益に痛めつけたい訳ではないからな」
ラウダはそう言ってカリールを部屋の隅に放った。神の目は当然返すつもりはないらしく、それを持ったままアルハイゼンよりすこし離れた位置に座り、二人を見張る体制に入った。
「儀式が終わったら返してやる」
まぁその時狂ってなかったらな、と言われてアルハイゼンは、またも運に縋る羽目になるとは、と溜息を吐いた。
それから数刻が過ぎ昼を過ぎた頃、ようやく儀式の準備が終わったらしいターリブがアルハイゼンを迎えに来た。部屋の隅で気絶させられて寝そべっているカリールを見て何やら不審そうな顔をしたが、今はそれよりもとラウダにアルハイゼンを運ぶようにと頼み、部屋を出ていく。ラウダもアルハイゼンを俵を担ぐように抱え、部屋を後にした。
向かった先は天然で出来た洞窟のような場所だった。すぐそこが外に面しており、昼間の砂漠の熱風が時折入り込んでくる。岩壁にはロウソクが点々と祀られていて、その付近には火鉢が数個、そして、地面には砂に木の枝か何かで描いたかのように陣が描かれており、如何にも何かの教団の儀式然とした様子だった。
ラウダに担がれたままアルハイゼンは砂の陣の中心まで運ばれ、そこへと下ろされる。そして暴れないよう押さえつけられたかと思えば、ターリブが近づいてアルハイゼンの袖を捲り上げ、腕に注射をひとつ打ち込んだ。アルハイゼンは直ぐにそれが筋弛緩剤だと分かるや否や暴れようとしたがラウダに押さえつけられていたことでそれは叶わなかった。チッと大きく舌打ちをして忌々しくターリブを睨みつける。
「念には念を、です」
注射器の中身を全部注ぎ終えたターリブは素早くその場を離れ、注射器を放り捨てた。
「さあ、儀式を始めましょう」